京都鴨川上流
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=== 泳がせ釣りでバス駆除 ===
■ はじめに
 強い真夏の日差しと草いきれにむせぶ2001年の夏頃、琵琶湖の中東部にある志那中と守山漁港波止横において、活魚をつかった泳がせ釣りによる外来魚駆除を数回試みた。ここではその結果を元にして、駆除釣法としての有効性を考えてみたい。
ご存知ない方の為にご紹介するが、「泳がせ釣り」とは活魚を餌として使った釣法である。海釣りにおいては、主にスズキ・ヒラマサ・カンパチ・ハマチ・イカ・ヒラメ等の、一般にもなじみの有る魚類を対象とし、これらの魚種がもつ魚食性(フィッシュイート)を利用した釣法である。そのダイナミックな釣りの趣きや、比較的大型の魚が釣れることから、多くの釣り人を魅了してきた。もちろん、私も他聞に漏れない。
対象魚をブラックバスとしたとき、その食性は前述の魚種に近似した魚食性をもっていると推察される。バスの捕食形態を知る為のテストとして泳がせ釣りを試みた次第である。釣法や餌こそ違うが、近年ブームとなったルアー(疑似餌)釣りも、そのアプローチにおいて同根であろう。


■ 2001年7月22日
 インターネットウェブサイト「BigFishingの法則」のオーナーであり、外来魚問題に対して積極的な活動を行われている魚成氏の薦めに従い、一回目の泳がせ釣りを試みた。当日餌として選んだのは、体長7センチ程の金魚(姉金)である。
真夏の琵琶湖
近所のホームセンターで10尾購入し、酸素供給用の電池式エアーポンプを取り付けたクーラーボックスに入れて、活かしたまま釣り場に臨んだ。釣り場の選択に迷ったが、魚成氏が40オーバーを継続して釣り上げている実績から、草津市志那中で竿を出すことに決めた。真夏の空は青く、入道雲が比叡の山々と競うかの如く天高くそびえている。額に流れる汗を拭いながら時計を見ると既に午前10時。海釣りにて魚食性の対象魚を釣った実経験から、ブラックバスは生きた餌の気配を感じ取ってゆっくりと活餌に忍び寄り、有効射程距離に入るや否や、猪突猛進で餌を追い掛け回して丸呑みにしてしまうものと予測をしていた。
 その結果、実釣4時間のあいだに5回の魚信があった。目印となるウキがゆっくりと
美しいハス (琵琶湖 烏丸半島にて)
水中深く沈み、見えなくなるまで待ってみたが、一度として針がかりせず、成果には結びつかなかった。しかし、5回ともに活餌の両脇には、噛み付かれてウロコが剥げ落ちた痕がハッキリと残っており、その形状から大型の魚類であることは間違いないと思われる。活餌を咥えてウキを水中深く沈めた大型魚類が、ブラックバスであると仮定して考えると、ルアーやワームでスレたブラックバスは、見慣れぬ魚を警戒し、金魚をくわえたままで丸呑みしなかったと思われる。


■ 2001年8月4日
 魚成氏より、その魚が普段食べている餌を使うのが釣果を得る鉄則であり、海川を問わず、釣りの常識であるとのご指摘を頂いた。そこで、近所の小川に沢山自然繁殖している銀色・流線型の魚を使って二回目の試行を行う事とした。
魚成氏: 活き餌はバス・ギルの生息しない所のカワムツなどが適当と思います
活餌(カワムツ)
家の前に流れる小川は、初夏の夜にはちらほらとホタルが舞うほどの水辺である。川辺の草に覆われてさらさらと流れる中に、カワムツは無数に泳いでいた。10〜15センチのカワムツを、ウィンナーを餌にして10匹程釣り、前回と同様にクーラーボックスに活かして釣り場へと臨んだ。場所は前回と同じ場所だが、時間をずらして日の暮れを挟んで約1時間の実釣である。結果、ラージマウスバスを一尾仕留めることができた。バスは、逃げ惑う活餌を2度ジャンプして追いかけた後、ウキを猛烈なスピードで水中深く沈めていった。3呼吸おいた後、しっかりと針がかりさせる為にアワセを入れると竿は弓なりとなり、31センチのラージマウスバスを捕獲することができた。
泳がせ釣りで釣れた31cmのバス
その豪快さと獰猛さは、将にフィッシュイーターの本領発揮と言って良いだろう。
 7月22日の釣行で使った金魚と、今回のカワムツでは、バスの反応に大きな違いがあったことに着目したい。このバスは、銀色流線型の魚を丸呑みにすべく、普段の慎重さをかなぐり捨て、なりもふりもかまわずにジャンプして2度も水しぶきをあげたのだ。彼らをして、あれほどに大胆な捕食行動へと至らしめた要因は、夕暮れ時であったこともさることながら、普段捕食している魚が餌であったことに他ならないと思われる。


■ 2001年8月19日
 同年8月12日、滋賀県漁業組合連合会・青年会主催による駆除大会「琵琶湖を守ろうバス・ギル駆除大会」に魚成氏と2人で参加した(当日の詳しい様子は魚成氏の記事を参照されたい)。漁港内への立ち入りが厳しく制限されていることは、
獰猛なフィッシュイーターたち
要所に張り巡らされた鉄条網が物語っている。実釣の結果、ここには大型のブラックバスが多数生息していることが分かった。
 日を改めた8月19日、活餌として銀色流線型のカワムツを準備し、守山漁港横の石積みへと向った。魚成氏と2人で、大型のバスを駆除した場所は、鉄条網のすぐ向こう側である。16時から、夕暮れ時の時合いを挟んで約3時間の実釣の結果、47センチ〜28センチのラージマウスバス3尾を駆除することができた。


 当日最長寸となった47センチのバスは、この巨体を水飛沫を上げながら空中に投げ出して活餌を追いかけたのだ。堂々としたその威容と重量感からは伺うことのできない敏捷さと大胆さである。その瞬間の光景は、いまだに忘れることができない。これでは在来魚などひとたまりも無いだろう。


■ まとめ
 やはりブラックバスは琵琶湖の魚を食べている。圧倒的なパワーで在来種を捕食し、僅か15年で琵琶湖沿岸から在来種を激減させる要因になった事を納得した。外来魚駆除の一手法としての泳がせ釣りは、産卵可能な親魚を駆除する方法として有効であると思われる。即効性は薄いかもしれないが、同一水域の親魚のなかから競争に勝ち、活餌を捕食できる程の優占種を継続的に駆除できるならば、種への影響も無視できないものと考えられる。


■ おわりに --- 静かな水辺と負の遺産 ---
 この一年程の間、魚成氏を始めとする駆除実践メンバーと共に、琵琶湖に通って外来魚の駆除を継続した。以前はいくらでも釣れたというボテジャコどころか、私は一尾の在来種すらも釣っていない。そこで見たものは、専門家ではない私ですらはっきりと感じとれる程の偏った生態系であった。目に付くはずの水辺の生き物たちは稀にしかおらず、望まなくても噛まれるはずの蚊にすら、一度も噛まれなかったのだ。
釣れるのは外来魚ばかり

昔の琵琶湖を知る複数の人に聞いた<15年前ならば、それぞれの季節のトンボがどちらを向いても目に入るのが普通であり、夏の夕方に半袖で釣りをしようものなら蚊が纏わり付いて離れず、酷い目にあうのが当たり前だった。また、藻場にすくい網を入れれば、多種多様な生き物が入っていた。>という話だった。今、琵琶湖の生物を取り囲む環境は、これ程にも悪化している。私は、15年とかからない間に、琵琶湖においての圧倒的な覇権を奪取した外来魚が要因の一つであると考えている。限られた種類の生物が、短期間に爆発的な繁殖を行う事によって覇権を握った経緯を鑑みると、水面下では魚類と水生昆虫類を対象とした、外来魚による壮絶な一方的捕食活動が行われて来たと推し量っても無理はないだろう。そして琵琶湖は、多様な生物の息吹が感じにくい、静かな水辺になったと考えている。
 「外来魚は在来の生態系に影響を及ぼしていない」という科学的証明がなされていない以上、対処を先延ばしにする選択は賢明と言えない。在来種は、琵琶湖に流入する河川等で細々とではあるが種を維持しているとの実地調査報告もある。それらの種が絶えてしまわぬうちに具体的な成果をださなければ、永遠に失われるのだ。
 この現状は、後世の人々に対して自信を持って継承できるものではない。原因は広範にわたるが、ブラックバスの問題に限って言えば、一業界の飽くなき利潤追求が残した負の遺産であると私は考えている。現状の改善に向けて関わることが、この時代の空気を吸い、水を飲んで生きる人にとってのひとつの課題ではなかろうか。
 より多くの方々に琵琶湖生態系の惨状を訴えかけ、この現状を打破するパワーとするには、行政に頼るだけでなく、我われ一般市民の手によって更なる駆除実績が積まれる必要があるとの認識を新たにしている。釣りによる外来魚駆除という手法が更に磨かれて、相応の実績が伴うならば、活動の裾野と機会が広がり得るはずなのだ。本来あるべき姿の琵琶湖と、日本を代表する大湖が悠久の時をかけて育んだであろうその豊かな生態系は、往時の面影を僅かに残すのみとなっている。どれほどを元に戻せるか、どれほどを後世に残せるかわからないが、その可能性を高める一翼として外来魚駆除活動が位置付けられ、その輪が広がることを願って止まない。

2002年 1月
文責 如水@外来魚バスターズ

<参考>
ブラックバス 納得できぬ「釣る権利」
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